我慢と幸運と現実逃避。
私は蝶。それはそれは美しい蝶。
説明無用の美しい蝶は、今蜘蛛の巣にかかっていました。平素ならば蜘蛛がやってきて踊り食いされてしまいます。だが運が良いのか悪いのか、蜘蛛は既にどこかへ引っ越した後でした。なので蝶は逃げる算段を考える余裕もたっぷりありました。餓死に至る以外に、蜘蛛の巣による弊害は増えていないからです。
蜘蛛は更に幸運なことに、蜜の入った花が飛んでくることが多い場所であることに気付きました。自分がひっかかったように、花も見事に同じところに来ます。当たって痛いくらいで、お腹が膨れるまで毎日食べることができて嬉しい程でした。
あぁ、早く今日も花が飛んでこないかなぁ。
頭の中にはいつも食事のことばかりになってしまいました。蝶はまるまるに太って、いつしか羽がもげて、見るも無残な虫になりました。空中からも容易に見える肥えた虫は、スズメの幸子さんに喜んで咥えられて、遠くへ遠くへ飛んでいきました。この巣に戻ってきた蜘蛛は、一週間の旅行を後悔したそうです。
これは、蜘蛛の考えた蜘蛛によるお話だそうですが、蝶の世界にも、鳥の世界にもある昔からのお話だそうです。
この物語はフィクションで、実際に存在する人間の現実や団体とは一切関係がないからです。
私は蝶。それはそれは美しい蝶。
説明無用の美しい蝶は、今蜘蛛の巣にかかっていました。平素ならば蜘蛛がやってきて踊り食いされてしまいます。だが運が良いのか悪いのか、蜘蛛は既にどこかへ引っ越した後でした。なので蝶は逃げる算段を考える余裕もたっぷりありました。餓死に至る以外に、蜘蛛の巣による弊害は増えていないからです。
蜘蛛は更に幸運なことに、蜜の入った花が飛んでくることが多い場所であることに気付きました。自分がひっかかったように、花も見事に同じところに来ます。当たって痛いくらいで、お腹が膨れるまで毎日食べることができて嬉しい程でした。
あぁ、早く今日も花が飛んでこないかなぁ。
頭の中にはいつも食事のことばかりになってしまいました。蝶はまるまるに太って、いつしか羽がもげて、見るも無残な虫になりました。空中からも容易に見える肥えた虫は、スズメの幸子さんに喜んで咥えられて、遠くへ遠くへ飛んでいきました。この巣に戻ってきた蜘蛛は、一週間の旅行を後悔したそうです。
これは、蜘蛛の考えた蜘蛛によるお話だそうですが、蝶の世界にも、鳥の世界にもある昔からのお話だそうです。
この物語はフィクションで、実際に存在する人間の現実や団体とは一切関係がないからです。
テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学
投函。
この手紙を書くまでに、どれだけの困難があっただろうか。
それはたかだか一時間とちょっとの時間かもしれない。しかし、それだけの困難と感じるには、充分すぎる時間でもあろう。
便箋と封筒をそろえるだけでも、まず私は約四百円を払わなければいけない。それは、月五百円のお小遣いしかもらえない私にとって大金であった。毎月買っている漫画雑誌の七月号の空間が埋まらなかったのである。あまつさえ、15冊並んでいる本棚の中で、6の次に8が来るのだ。団子のように丸っこい数字が並ぶと据わりが悪かろう。それ以前に、数字の序列として気持ち悪いのだが。
そうして許容するまでの心積もりが出来たところで、私は文面をそろえることも出来ない。国語辞典を何度も引く。"あまつさえ"もそこで覚えた単語だ。"そのうえ、余計に。"そういった意味だ。漢字で書くと、乗という漢字を偏にし、リっとうを右に添えればいいというなんとも単純な図式である。私は、これからの人生であまつさえという言葉を的確に使えるようになった。
そうした、なんでもなさそうな一つ一つのことすら、インディージョーンズが死に掛けたいくつもの場面のように思い返せるのだから、これを回想する必要もないありきたりな困難だとは言えまい。
この手紙は一年余り連絡を取っていない、しかも軋轢が生じた状況であるから取っていない、友人へ送る手紙なのだ。私は手紙というものに恐怖すら抱いた。
一年ものわだかまり。どう相手を想像して、書いたことか。
この手紙を書くまでに、どれだけの困難があっただろうか。
それはたかだか一時間とちょっとの時間かもしれない。しかし、それだけの困難と感じるには、充分すぎる時間でもあろう。
便箋と封筒をそろえるだけでも、まず私は約四百円を払わなければいけない。それは、月五百円のお小遣いしかもらえない私にとって大金であった。毎月買っている漫画雑誌の七月号の空間が埋まらなかったのである。あまつさえ、15冊並んでいる本棚の中で、6の次に8が来るのだ。団子のように丸っこい数字が並ぶと据わりが悪かろう。それ以前に、数字の序列として気持ち悪いのだが。
そうして許容するまでの心積もりが出来たところで、私は文面をそろえることも出来ない。国語辞典を何度も引く。"あまつさえ"もそこで覚えた単語だ。"そのうえ、余計に。"そういった意味だ。漢字で書くと、乗という漢字を偏にし、リっとうを右に添えればいいというなんとも単純な図式である。私は、これからの人生であまつさえという言葉を的確に使えるようになった。
そうした、なんでもなさそうな一つ一つのことすら、インディージョーンズが死に掛けたいくつもの場面のように思い返せるのだから、これを回想する必要もないありきたりな困難だとは言えまい。
この手紙は一年余り連絡を取っていない、しかも軋轢が生じた状況であるから取っていない、友人へ送る手紙なのだ。私は手紙というものに恐怖すら抱いた。
一年ものわだかまり。どう相手を想像して、書いたことか。
テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学
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