.:. 常 凡 なる 日 常 .:.
断片的な短編小説と、日記を載せます。
眠気
 白と黒と灰色しかない国でした。
 彼らは色を求めました。
 赤い花がこの世に一輪だけ存在すると、
 世界で一番の賢者が言い伝えていたからです。
 王様は命じました。
 どんな手段を使っても、花を手に入れろ。
 兵隊は頑張りました。
 大臣も頑張りました。
 お后も頑張りました。
 国民も頑張りました。
 皆も一目見てみたい気持ちがありました。
 王様は悩みました。
 一向に見つからないからです。
 国が廃れていくのも気づくことなく、
 白い花や黒い花には目もくれず。
 ある時、一人が血を吐いて倒れました。
 王様の無理な要望に、体が耐えられない人がたくさん出ていたのです。
 血は真っ赤でした。
 王様は倒れた兵士を見て、
 よく見つけた。褒美を取らそう。
 そう言いながら、とても喜びました。
 たくさんの花を見て、よろこびました。
 この国に、白と黒と灰色と赤ができた瞬間でした。
 今も、赤は兵隊の中の一人が見つけてきます。
 だが残念ながら、赤い花はすぐに黒くなってしまいます。
 王様は九の赤い花を見た夜。
 自分の体に刃を立てて、大きな花を作りました。

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じじいの音楽
 じじいが働いているのは渋谷のラーメン屋。私と同じアルバイトをしていた。自給は千とちょっと。この辺りでは大した魅力にはならない。薄利多売をもっとうとしているように、一杯三百円で売っていた。昼時、夜時は回らない程の人がやってきて、そうでもない時間ですら席の八割方は埋まっていた。じじいに作ってもらうラーメンは、私も食べてみたが、とてもじゃないがうまくない。まずくはないが、うまくない。こんなラーメンを食べにくるのだから、場所というのは大事である。
 じじいは昼夜関係なくシフトが入っていた。それ以外の時間もアルバイトをかけもちしているらしく、厨房の中以外、例えば更衣室や裏で昼を食べている時も、話すことはできなかった。
 そんなじじいと親しくなったのは、ついこないだである。
 のりラーメンとかいう本当どうでもいいラーメンを二杯作っている時のこと。店内にかかっているラジオの音楽に、じじいが思わず鼻歌を合わせていたのだった。
「じいさん、この曲知ってるのかい?」
私はこの時、じじいの名前さえ知らないことを知った。そんなじじいが歌っていたのは、最近流行のアイドルグループの曲だ。女子高生などはドラマの主題歌でおなじみの曲だった。
「いんや、知らん」
じじいはこれだけ言うと、のりを載せて客へラーメンを出した。知らないにしても堂が入った鼻歌だった。当然という顔しているじじいは、ここ数週間この曲を聴いていたのだ。一日の半分近くをここで過ごすじじいにとって、バックミュージックも重要な生活の一部になっているらしい。ランダムに流れる有線放送によて、じじいの好みが少なからずわかってきた。私も知っていた演歌や古株の歌手の曲には見向きもしない。
「じいさん。この曲はジャスティスって言うんだよ」
「じゃすてぃす?」
じじいは訝しげな顔を向けながらも、ラーメンを作る手を止め何か聞きたがっているようだった。じじいの曲の趣味は、予想以上にミーハーである。
「ジャスティスってのは、日本語だと正義って意味なんだけど、」
「それくらい知ってるわ」
「それは悪かった。敗れた仮面っていう法律ドラマの主題歌だったんだ」
「それでじゃすてぃすか。んで、誰が歌ってるんだい」
「歌ってるのはロキオっていう五人組の男の子のグループさ」
「へー」
そこまで聞き終えると、じじいはラーメンのスープを注いだ。
 じじいとはそんな感じで話始めるようになった。ラーメンの注文の合間、そうだな麺が茹で上がるまでとか本当そんな僅かな時間で、じじいは見る見るうちに多くの曲を覚えていった。最新の曲でお気に入りになってしまうと、私もまだ知らない曲だったりして、舌打ちをされることも多くなっていた。
 じじいがアルバイトを休んだのも、丁度この時期だった。
 当然週七日入っていたじじいもおかしいくらいで、店長も何度頼み込んでも休まないじじいにほとほと困っていた。店内はいつになくリラックスしていた。
「梶山さん、急に休んだね。連続勤務記録五十七か。それにしてもおかしなじいさんだよな」
同期のトウタがじいさんの代わりに麺を湯切っていた。常備二人で済む店内だったから、トウタと一緒に店内に立つのはとても新鮮だった。
「あのじいさん梶山っていうのか」
「何、ソースケ知らなかったのかよ。じいさんと唯一喋るバイト君だ。って店長泣いて喜んでたんだぜ。そいつが名前を知らないなんて……裏のシフト表に書いてあるだろ?」
そう言われてようやく思い出していた。私自身も週五のペースでバイトに入っていたため、シフト表に目をくれてやることを忘れていたようだ。
「梶山さん、何やってるんだろうな」
トウタが客にラーメンを出す姿が、じじいの姿に重なったが、やはりトウタではしっくりこなかった。
 たった一日休んだだけだったが、私から見て、じじいは満を持してといった雰囲気を伴って店内にやってきた。その姿を見たのは初めてではないはずだが、驚くにたる重装備であった。

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